忘却の彼方への記憶が・・・
2017年 10月 27日
前に求めていた『遠い山なみの光』`A PALE VIEW OF HILLS'小野寺 健訳(ハヤカワ文庫)をまだ読んでいなかったので読了。
買物のついでの近くの本屋さんで何気なく棚を見るとイシグロ氏の文庫本がずらーっと並べられていました。
あー、再発刊されたようでまだ読んでいないのを2冊求める。
その1冊『浮世の画家』`AN ARTIST THE FLOATING WORLD'飛田茂雄訳(ハヤカワ文庫)只今読了。
カズオ・イシグロ氏のこの小説は表題にも記しましたが、忘却の彼方へのノスタルジーと申しましょうか、「浮世の画家」は戦後生まれの方が戦時中のわたし小野という絵描きを主人公にしての1948年十月をスタートに戦争中に妻と息子を亡くした「わたし」がそれぞれ嫁がせていく娘二人との家族物語なのですが、作者の創造と日本への記憶を辿って行く見事な展開に今、私はうなっています。
解説に小野正嗣さんという方も記していらっしゃいますがどこでもない場所が書かれているのです。イシグロ氏が5歳まで生まれ育った九州長崎の地名なのでしょうが、実は私は九州地方だけまだ訪れたことがないのです。
その地方を彼も記憶を辿りながら想像の世界で地名を書き、読者をそこがあるかのように表現していく創造の舞台なのです。
日本の作家例えば福永武彦などはその土地を書くと自分が行ったことのある場所でもあり、その中にのめり込んでいけるのですが、イシグロ氏の文体はまったく見た事のない場所での語りで絵を描く芸術家の世界も日本画から精神画と申しましょうか、不思議な作品が登場し著名な画家になっていくのです。
「遠い山なみの光」も戦後の長崎が舞台なのですが主人公悦子が英国に住み回顧していくような物語でまさに作者カズオ・イシグロ氏の自己を追い求めて故郷へのノスタルジア的初期の作品なのです。
やはり日本を離れ異国で育ち生活の拠点が他国経験によって独特の世界観で物を見る新たな人間像が浮かんでくる・・・前に読んだ『日の名残り』や『わたしを離さないで』『忘れられた巨人』等、意表をつくそれぞれの想像小説に日系英国人としての地位がしっかりと獲得された新しいノーベル賞作家なのでした。
Wunderbar!