パリの街をさまよう意味・・・

何度かパリを訪れた私はモディアノの作品「暗いブティック通り』(Rue des Boutiques Obscures)を読んでいてある個所に来てしばし〈あー、人間の・・・!〉

 おかしな連中だ。通過した後に、たちまちかき消える水蒸気のようなものしか残さない連中、われわれ、ユットと私はしばしば、行方知れずになるそうした人間の話をしたものだった。彼らはある日忽然と虚無のなかから現われ、しばしぴかぴか光った後でまた虚無に帰る。女王と謳われた美女たち。女に貢がせる優男たち。浮名を流す道楽者。彼らの大部分は、生きている間でさえ、絶対に凝縮することのない蒸気以上の濃度を持たないのだ。そこでユットは一例として、彼が《海水浴場の男》と呼んでいた男の話をしたものだった。その男は一生のうちの40年を海水浴場やプール・サイドで過ごして、避暑客や金持ちの閑人たちと愛想よく歓談しつづけた。何千枚というヴァカンスの写真の片隅とか背景に、陽気なグループに囲まれた海水着姿の彼が映っていて、それでいて誰も彼が何という名前か、なぜそこにいるのか言えないだろうという。そしてある日彼が写真から姿を消しても誰も気がつかなかった。ユットに言う勇気こそなかったが、私は《海水浴場の男》とは私のことだと思った。それにそう告白しても彼を驚かしはしなかったろう。ユットは、結局のところわれわれはみんな《海水浴場の男》なのであり、《砂はーーーと彼の使った言葉をそのまま引用するがーーー何秒かの間しかわれわれの足跡を留めない》のだと繰り返し言っていた。ー ⅤⅢ章より抜粋ー

モディアノはこのような表現を本質的なところで言いたかったのであろう。

自分と照らし合わせてもこの小説の中の「私」は多分30代・・・、moi aussiのころ、パリの街を子どもが学校に行っている間、語学学校で日本人の一人として軽くあしらわれ、その屈辱を気晴らしにパリのデパートやブティックを見て回り、キャフェに入って周りのフランス人を観察したり、語学学校のフランス人の教師に日本人への偏見を感じてなにくそと沢山の宿題に悲鳴をあげながら夜も寝ないで頑張ってもたかが東洋人、このモディアノの作品にも出てきますが、日本人の印象が‘防腐処置を施された日本人を地下納骨堂みたいなバーに残して’などとかなりひどい表現を印象づけているのです。
最も確かに私もその頃パリで日本人の旅人がひとりでショウなどを観にきている人の印象は何でそんな能面みたいな顔で娯楽を見ているの?と思ってしまったりしておりましたが・・・。

その日本人としての単なるひとりであるわたくしも、つまりは《海水浴場の男》であり、砂と同じで何秒かの足跡であったのでした。

モディアノは自分の父親のルーツを探り過去の事実を想像して織りなす物語は、人間の儚さ、日本人のもののあわれに通じる人類共通のドラマにしたてあげようとしているのでした。

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Commented by k_hankichi at 2014-11-02 20:31
おようさんのお薦めと思いまして、買い求めました。読み始めました。なんともすごい感性のようです(まだ冒頭の方ですが)・・・
Commented by およう at 2014-11-02 21:07 x
はんきちさま 嬉しいー!込み入った人間関係でもあり再読しております(*^^)v
Commented by maru33340 at 2014-11-02 23:22
お、遅れをとったか(>_<)
Commented by およう at 2014-11-03 10:12 x
maruさま いえいえ^^ そろそろ市場にも出回り始めています。春樹の世界とまたちがう趣きがあります。是非に一冊は・・・(^_^)
Commented by KawazuKiyoshi at 2014-11-05 14:34
パリ、思い出しますね。
1984年の6月にパリに滞在していました。
パリのシテにいて、パリ大学の研究通い。
6月のパリは寒かった。
でも、よくパリの街を歩きました。
お元気で。
今日もスマイル
Commented by およう at 2014-11-05 18:16 x
KawazuKiyoshiさま コメント嬉しく拝見^^ 1984年頃・・・Ichは東京でしたがシテ島に通っていらしたのですね。このモディアノ氏の作品にもパリ中の地名が沢山出てきます。貴殿はどの辺りにお住まいでいらっしゃいましたかしら。私は16区の外側ブーロニュ・ビアンクールという地名でモディアノの生まれた地域と同じでひとり親しみを感じておりますヽ(^。^)ノ
Commented by madamegrimm at 2014-11-05 19:43
Kiyoshiさま pardon!シテにお住まいでパリ大學まで研究で通われたのですね。パリ発生の地から右岸左岸を歩かれたご様子が目に浮かびます。良き時代でした(^_^)v
by madamegrimm | 2014-11-02 15:50 | 人間 | Comments(7)

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