津島佑子の遺作
2016年 11月 01日
津島佑子さんの絶筆長編小説『狩りの時代』を読みました。
小説『山を走る女』を読んだ時から、彼女の環境が忙しく頭を駆け巡っている作風となってやはり共通なものを感じる一人の人間の生き様が死を間際にした作品となって読む者を夢中にさせるのでした。
障害を持った兄と共に優しく育っている妹・絵美子が15歳で兄・耕一郎の死別にであってから絵美子の心に引っかかっている「フテキカクシャ」という言葉を追って人間の心の奥の差別の世界を現・近代の時代を背景にして突き進んでいく筆は彼女のまさに壮絶な力に圧倒されるのでした。
太宰治の娘として特別な環境に置かれていた作者ではありますが、母と共に力強く支え合っていく中で伯父(太宰の長兄)この作品の中では永一郎という名前でアメリカに渡り核エネルギー研究の物理学者として安定した生活者が常に二人を見守っていく・・・。
絵美子の夢の中で母の声が響いてきたり、90歳を過ぎた永一郎が倒れ最後の9章ではその伯父の夢で作者のこころの内が表現されていくのです。
そして寝ている永一郎の体に突然大きな揺れが襲う。
母・カズミの悲鳴が聞こえる。
なんてことなの、原子力発電所が爆発したわ。こんなことが起きるなんて。わたしたち、どうなるの?永一郎さんは原子力の可能性を信じていたけど、こうなってみると、所詮は、わたしたち人間には制御できるものではなかったんだわ。
さあ、皆で考え併せていかなければならない時代に入ってきているのでした。