グリム童話 第2話 「ねことねずみの共暮らし」 日本語訳 ‘2’

 「いいよ、いいよ」と、ねずみは答えました。「どうぞ行っといで。何かおいしいものを食べたら、わたしのことを思いだしてね。洗礼祝いのあまい赤ブドウ酒など、わたしもちょっと飲みたいですね」
しかし、その話はまったくうそで、ねこにはいとこなどいませんでしたし、名付け親をたのまれたこともありませんでした。
ねこはまっすぐ教会に行って、ヘットの小つぼにしのびより、なめはじめ、あぶらの多い皮をなめてしまいました。それから、ねこは町の屋根の上を散歩し、よい場所をえらんで、日なたで長々とねそべって、ヘットの壺のことを思い出すごとに、ひげをぬぐいました。夕方になってからようやく家に戻ってきました。
「おや、お帰り」と、ねずみはいいました。
「きっと、楽しい一日だったろうね」「いいぐあいだったよ」と、ねこは答えました。
「赤ちゃんはなんていう名をつけたの?」と、ねずみが聞きました。
「皮なめ」と、ねこはぶっきらぼうに言いました。
「皮なめだって?そいつは奇妙なめずらしい名だなー。君の一族じゃ、ありふれた名なのかな?」と、ねずみは大きな声でいいました。
「それがどうしたのさ?」と、ねこはいいました。
「おまえさんの名親たちの、パンくずどろぼう、なんて名より悪くないよ。」
それからいくらもたたないうちに、ねこはまたヘットがなめたくなりました。
ねこはねずみにいいました。「すまないけれど、もう一度ひとりでうちをみておくれよ。わたしはまた名づけ親を頼まれたんだよ。赤ちゃんは首のまわりに白い輪があるんで、ことわれないんだよ。」
おひとよしのねずみは同意しました。
ねこは町の石垣の後ろから教会にしのびこみ、ヘットの壺の中を半分食べてしまいました。
「ひとりで食べるくらいおいしいものはない」と、ねこはいい、今日はうまいことをしたと、すっかり満足しました。
うちに帰ると、ねずみが「今度の赤ちゃんはなんて名をつけられた?」とたずねました。
「半分たいらげ」と、ねこは答えました。
「半分たいらげだって!何をいうんだね!そんな名前は、生まれてから聞いたためしがない。そんなのは、こんりんざい、こよみにのっていないよ。」
 まもなくまたねこはごちそうが食べたくなって、よだれがでました。
「いいことはなんでも三度ある」と、ねこはねずみにいいました。「また名づけ親をつとめなきゃならない。今度の赤ちゃんは真っ黒で、足だけが白い。そのほかには、からだじゅうに白い毛が一本もない。こんなのは、二、三年に一度しか生まれない。出かけさせてくれるね?」
「皮なめ!半分たいらげ!なんてのは、妙な名前だよ。考えちゃうね」と、ねずみは答えました。
「おまえさんは濃いねずの毛ごろもを着て、長い髪をおさげにして、うちにひっこんでいるから、気まぐれをおこすんだよ。昼間、外に出ないせいだよ。」と、ねこはいいました。
ねずみは、ねこの留守のあいだ、片づけをして、家の中を整頓しました。
一方、食いしん坊のねこはヘットの壺の中をきれいに食べてしまいました。「すっかりたいらげてしまうと、気がおちつく」と、ねこはひとりごとをいい、満腹して、夜になってやっと帰ってきました。
ねずみはさっそく、三番目の赤ちゃんにつけられた名前をたずねました。
「その名もおまえさんには気にいらないだろうね。すっかりたいらげ、っていうんだよ」と、ねこはいいました。「すっかりたいらげだって!」と、ねずみは大声をあげました。「そんなのはとんでもない名前だ。印刷されたためしがない。すっかりたいらげ!だって、そりゃなんのことかね!」ねずみは頭をふって、まるくなり、寝てしまいました。
それからはだれももうねこを名づけ親に頼もうとしませんでした。

冬が近づいて、外に何ももう見つからなくなると、ねずみは自分たちのたくわえを思い出して、「ねこさん、さあ、しまって置いたヘットの壺のところへ行こう。きっとおいしいよ。」といいました。
「よかろう」と、ねこは笑いました。
「おまえさんが味のよくわかる舌を窓から外にだしたときのような味がするだろう。」ふたりは出かけました。
そこに行ってみると、ヘットの壺はもとのところにありましたが、中はからっぽでした。
「ああ」と、ねずみは言いました。「これで、どうなっていたのか、わかった。いまこそばれた。君はほんとの友だちだったんだなあ!君は名づけ親をつとめたとき、みんな食べてしまったんだ。まず、皮なめで、つぎに、半分たいらげで、それから・・・」
「だまらないか」と、ねこはどなりました。「あとひとことでもいってみろ、おまえを食べちゃうぞ。」「すっかりたいらげ」と、かわいそうなねずみが口に出しかけるやいなや、ねこは跳びかかって、ねずみをつかみ、飲み込んでしまいました。
 ねえ、世の中ってこんなものですよ。  おわり

  2013年5月9日 記の続きでした。
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by madamegrimm | 2013-05-13 13:22 | グリム童話ってすごい | Comments(0)

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