第55話の日本語版です
2012年 11月 05日
昔、ひとりの粉ひきがいました。貧しかったのですが、粉ひきには美しい娘がありました。
あるとき、粉ひきは王さまと話をすることがありました。そして王さまにこう言いました。「わたくしには娘がひとりいるのですが、こいつが、藁を金に変える術を持っています。」
そこで王さまは粉ひきの娘をすぐに連れてこさせると、部屋いっぱいの藁を夜のうちに金に変えるように命じました。そして、もしできなかったら、死んでもらうぞ、と言いました。
娘は部屋に閉じ込められ、そこにすわって泣いていました。どうやって藁を金に変えたらいいのか、まったくわかりませんでした。
すると突然ひとりの小人が娘の前に現れて言いました。「もしおれがこいつをぜんぶ金に変えたら、何くれる?」娘は首飾りをはずすと、小人にくれてやりました。
すると小人は約束したとおりやってくれました。
次の朝、王さまがやってくると、部屋は金でいっぱいになっていました。
ところが王さまはそれを見ると、ますます欲が出てきて、粉ひきの娘を藁でいっぱいのもっと大きな部屋へ入れさせると、その藁をまた金に変えるように言いました。
そこへまた小人がやってきたので、娘は指から指輪をはずして小人にくれてやりました。するとまたすべて金になりました。
ところが王さまは娘を三日目の晩もまた別の部屋に閉じ込めるように命じました。
その部屋は前のふたつの部屋よりもさらに大きく、藁がぎっしりつまっていました。そして「今度もうまくやったら、おまえをわたしの妻にむかえよう」と、王さまは言いました。
そこへ小人がまたやってきて言いました。「もう一度やってあげるよ。だけどおまえさんと王さまのあいだに生まれた一番はじめの子どもをおれにくれるって約束してくれなくちゃだめだぜ」。娘は困りはてて言われたとおり約束しました。
さて王さまは今度も藁が金に変わっているのを見て、美しい粉ひきの娘を妻にむかえました。
それからまもなく妃はかわいらしい子どもを産みました。すると小人が妃のところにやってきて、約束した子どもをくれ、と言いました。
しかし妃は懸命にたのんで、子どもを連れていかなければ、宝物を全部あげる、と申し出ましたが、なにを言っても無駄でした。
けれどもしまいに小人はこう言いました、「三日したらまた来て、子どもを連れてくよ。だけど、もしおまえさんがおいらの名前を言い当てられたら、子どもは置いていってやるさ!」
そこで妃は一日目、二日目と小人がいったいどんな名前なのか、いろいろ考えましたが、どうにも思いつかず、すっかり沈みこんでしまいました。
けれども三日目に王さまが猟から戻ってきて、妃にこんな話をしました。
「おととい、わたしは猟に出かけた。暗い森深く入っていくと、小さな家があって、家の前にまったくおかしな小人がいて、こいつが家の前でぴょんぴょん片足で跳ねまわって大声でわめいてるのさ」。
「今日はパン焼き、明日はビールの仕込みさ、
あさってには妃の子どもはおいらのものさ、
ああ、ほんとうにゆかいだぜ、誰も知りゃしないさ、
おいらの名前はルンペルシュティルツヒェン!」
妃はそれを聞いてとても喜びました。そして、やっかいものの小人がやってきて聞きました、
「お妃さま、おいらの名前はなんてんだい?」ーー「コンラートかしら?」--「いいや」--「ハインリッヒかしら?」--「いいや」
ひょっとして、ルンペルシュティルツヒェンかしら?
悪魔の野郎が教えやがったな!小人はそう言うと、怒り狂って走っていってしまいました。そして二度とやってきませんでした。おわり
訳は初版グリム童話集・吉原高志氏、素子氏より (初版ですので第二版以降の原文と少し違います)
なるほど・・・・
坂本九の歌に「あの娘の名前はなんてかな?」がありましたが、日本も本名を秘す、習慣がありますね。
平安時代あたりからでしょうかね?
言魂信仰の流れですかねぇ・・・
ビジネスの方は別として、嫁さん同士など特に伺っても名のりません。何か名のるのが恥じ入る感じなのか・・・、そう、名前には霊威が潜んでいるのかな・・・。